2013年01月17日
1.17 合掌
大阪 毎日新聞 1月10日
18年後の私ー阪神大震災を生きて
〜僕は今笑ってるよ〜 神戸港で建造中のばら積み運搬船。青い空と海を望む操舵(そうだ)室で昨年11月、ヘルメットと保護メガネを着けた川崎重工業社員、大野成郎(しげお)さん(22)が非常ベルを点検していた。「大野、しっかりやれよ」。先輩が活を入れた。担当した配線に問題はない。船室でも音が聞こえるか、トランシーバーで同僚に確かめる。「OK」の答えが返ってきた。
震災が起きたのは4歳の時。神戸市長田区の自宅が倒壊し、2階の隣で寝ていたはずの母と兄の声は聞こえなかった。トイレの水が流れる音がしていたのを覚えている。家具の隙間(すきま)でそのまま眠ってしまい、救出されたのは約30時間後だった。1階で寝ていた父も下敷きになり亡くなった。
大阪市の親戚宅に2カ月預けられ、長田区で靴加工の内職をしていた祖母・文福汝(ふくじょ)さんに引き取られた。2人暮らしの日々。「お母さんはおうち、お父さんは仕事、お兄ちゃんはそろばん」と信じていたが、いつまでたっても会えないことが「死」だと知った。寂しくて布団にもぐって泣いた。人恋しさから、休みのたびに友達を呼んでテレビゲームをした。福汝さんは、山盛りのチャーハンを振る舞ってくれた。
その福汝さんは中学2年の秋、膵臓(すいぞう)がんのため79歳で亡くなった。ショックで涙すら出なかった。児童養護施設に入所する話もあったが、友達と離れたくなくてそのまま1人暮らしを選んだ。
この頃、わがままを聞いてくれる福汝さんに甘えて生活態度は乱れていた。宿題はせず、授業中は漫画。同級生を威圧し、敬語を使うよう求めた。福汝さんを失い、ますます「俺は一番不幸な人間や」とふて腐れた。
見かねた担任は、福汝さんが内緒でたびたび相談に訪れていたことを明かした。周りの子と同じように塾に通わせた方がいいのか、今時の中学生はどんな弁当のおかずを喜ぶのか。がんに侵された体を引きずり、職員室で質問を繰り返していた、と。
布団の上で考えた。最後まで親代わりを全うした祖母。毎朝、電話をかけてくれる先生。1人になった後、毎日弁当を作ってくれる同級生の母親。晩ご飯を食べさせ、洗濯もしてくれる須磨区の親戚。そして何より、突然命を絶たれた両親と兄。
「もっと人の気持ちを考えなあかん。しっかりせな」
彼の18年。
18年。
18年や。
想いが巡る。
6434人の命に黙祷。
満月の夕
18年後の私ー阪神大震災を生きて
〜僕は今笑ってるよ〜 神戸港で建造中のばら積み運搬船。青い空と海を望む操舵(そうだ)室で昨年11月、ヘルメットと保護メガネを着けた川崎重工業社員、大野成郎(しげお)さん(22)が非常ベルを点検していた。「大野、しっかりやれよ」。先輩が活を入れた。担当した配線に問題はない。船室でも音が聞こえるか、トランシーバーで同僚に確かめる。「OK」の答えが返ってきた。
震災が起きたのは4歳の時。神戸市長田区の自宅が倒壊し、2階の隣で寝ていたはずの母と兄の声は聞こえなかった。トイレの水が流れる音がしていたのを覚えている。家具の隙間(すきま)でそのまま眠ってしまい、救出されたのは約30時間後だった。1階で寝ていた父も下敷きになり亡くなった。
大阪市の親戚宅に2カ月預けられ、長田区で靴加工の内職をしていた祖母・文福汝(ふくじょ)さんに引き取られた。2人暮らしの日々。「お母さんはおうち、お父さんは仕事、お兄ちゃんはそろばん」と信じていたが、いつまでたっても会えないことが「死」だと知った。寂しくて布団にもぐって泣いた。人恋しさから、休みのたびに友達を呼んでテレビゲームをした。福汝さんは、山盛りのチャーハンを振る舞ってくれた。
その福汝さんは中学2年の秋、膵臓(すいぞう)がんのため79歳で亡くなった。ショックで涙すら出なかった。児童養護施設に入所する話もあったが、友達と離れたくなくてそのまま1人暮らしを選んだ。
この頃、わがままを聞いてくれる福汝さんに甘えて生活態度は乱れていた。宿題はせず、授業中は漫画。同級生を威圧し、敬語を使うよう求めた。福汝さんを失い、ますます「俺は一番不幸な人間や」とふて腐れた。
見かねた担任は、福汝さんが内緒でたびたび相談に訪れていたことを明かした。周りの子と同じように塾に通わせた方がいいのか、今時の中学生はどんな弁当のおかずを喜ぶのか。がんに侵された体を引きずり、職員室で質問を繰り返していた、と。
布団の上で考えた。最後まで親代わりを全うした祖母。毎朝、電話をかけてくれる先生。1人になった後、毎日弁当を作ってくれる同級生の母親。晩ご飯を食べさせ、洗濯もしてくれる須磨区の親戚。そして何より、突然命を絶たれた両親と兄。
「もっと人の気持ちを考えなあかん。しっかりせな」
彼の18年。
18年。
18年や。
想いが巡る。
6434人の命に黙祷。
満月の夕
Posted by ゆうさん at 21:13│Comments(0)
│たゆたう日々